in the name of love
花野さんへ

俺、最近お前にすごく聞きたいことがあるんだ。
でも、聞けないんだ、怖くて。

----なあ、俺のこと本当に好きか？
----なあ、俺のことちゃんと彼氏だと思ってるか？
----まだ、隣の席の男子から抜け出せてないのか？

「珪ちゃん、今日ごめん。一緒に帰れないの。」
「どうして…？」
「うーん、ちょっとクラスの男の子から頼まれモノしちゃったの。ごめんね」
「…」

去年俺確かお前に好きだって言ったよな。
で、付き合ってくれよって言ったよな、たぶん。
でもお前はちゃんと俺のことを好きだって言ってくれたか？
ただ、黙ってうなづいてくれたからそれを返事だと思ったけど、本当はどうなんだ？
まだ、俺ってその他大勢の一人なのか？


は…自分では男子に人気ないよって笑ってるけど、それは嘘だ。
俺は知ってる。
知ってるからいつもそばにいて、変な男が寄ってこないように頑張ってるつもりなんだ。
だから堂々とお前に声を掛けるようなバカは減った。

かわいくて、ちょっとお節介で、人の痛みによく気が付いて。
ちょっとだけどんくさくて、にこにこいつも笑ってて。
男子にも女子にも人気があって。
その上、あの氷室にまで気に入られてるらしい。


それでも は自覚がない。


「 、俺お前とずっと一緒にいる」
「どうしたの？突然。」
「俺お前のこと大好きだ。お前は？」
「えっ？いや、その、あの……だよ」
「聞こえない」
「もうっ」

放課後の屋上で俺は を背中から抱きしめながら、聞いている。
お前の背中からぬくもりが伝わってくるから、こうやって抱きしめているのが一番好きだ。
いつもは学校でこんなことはしない、一応は自制しているし、二人きりの時にいくらでも出来るから。
俺はうまく言葉を伝えられないから、こうやって態度で示すしか能がないんだ。だからいつもこうやって抱きしめて離したくないんだ。
でも、 があまりに自覚がないまま、他の男と一緒に楽しそうに笑ってるから、ちょっとだけいじわるしてやるんだ。
今日はお前が離してって言っても離してやらない。好きだって言ってもらうまで離してやらない。

「ねえ、どうかしたの？珪ちゃん」
「なんでもない」
「そお？ホントに？」
「ああ、なんでもない。ただこうしたいだけ」

は俺だけのものだって学校中に大声で触れ回りたい。
そうして授業中だろうと何だろうといつも手をつないでいたい。
なのに学校で手を握ろうとすると、いつも は顔を赤らめてすっと逃げる。
逃げるなよ、俺から。
俺は絶対にお前から逃げたりしないのに。
逃げるなよ、 。

「珪ちゃん、もしかして何か悩んでる？だったらお姉さんが聞いてあげる」
「… 、お前な」
「なーに？」
「俺の悩みはお前だ」
「何それ」
「そのまんま」

お前のことを好きになればなるほど俺の悩みは大きくなっていく。でも、そんなに嫌じゃないんだ、不思議なことに。
ずっと腕の中に閉じこめていた を少しだけ解放して、俺の方に向かせる。そしてまた強く抱きしめる。
こうやってぎゅっと抱きしめていないと、この腕の隙間からお前がどこかに消えていきそうで嫌なんだ。
もう二度とそんな哀しい気持ちを味わいたくないんだ。

屋上から見える夕陽で俺達は真っ赤に染め上げられて、さっきまで少し赤らんでいたお前の頬の色なんてわからなくなった。
もしかしたら、俺自身も顔が赤いかもしれない。このまま二人で同じ色の中に沈むのも悪くない。
いつもと違って大人しく俺に抱かれたままの の顔を上げさせて、唐突にその暖かい唇にキスをした。
触れ合うだけの唇から俺の気持ちがお前にちゃんと伝わってるんだろうか？伝わってるよな、絶対。

「 、好きだよ」
「わたしも…」
「わたしも…何？」
「やだ…恥かしい」
「言って」
「やだよ」
「言ってくれないと帰してやらない」

本気で恥かしがっている の唇にもう1回キスを落として、「好きだ」という言葉を聞きたくてダメ押ししてみる。
言えよ、言ってくれよ。
聞きたいんだ、俺。
そりゃわかるだろって言われたらそれでおしまいだけど、ちゃんと聞きたい気分なんだ。

「じゃあ、後ろ向いてて」
「どうして？」
「恥かしいのっ！」
「嫌だ。そのまま言って」
「…大好き」
「聞こえない」
「だから…大好き」
「だから…何？」
「だから…、珪ちゃんが大好きっ！」
「俺も」

叫ぶように言った の顔は夕陽以上に真っ赤だった。あんまりかわいいからまた俺は をぎゅっと抱きしめて、思わず頭を撫でてしまった。
よしよしって感じで。やっと の気持ちは聞き出せたけど、もっと周りに見せつけてやらないといけないな。
俺達の間には何の隙間もないってことを、男ドモにもっとちゃんとしっかりと。
がはっきりしないから、あいつらまだ自分にもチャンスがあるなんて勘違いしてそうだから。
お前らにはヒトカケラもチャンスなんてないんだってことを、見せてやらなきゃな。

明日からは学校でも手をつなごう。
明日からは男がいるところには俺もついていこう。
そして、目の前でこいつにキスしてやるんだ、俺のものだって。

「 、このままどこかに連れ去りたいな、俺」
「どこ行くの？」
「バカ…。どこでもいいんだ。」
「じゃあ、宇宙に行きたいな」
「俺はお前だけがいればどこでもいい」
「えー、でも二人きりは淋しくない？」
「淋しくない、お前だけでいい」

お前だけでいい。
他には誰もいらない。
お前の周りには俺だけがいればいいんだ。

どこに行きたいかって？
それは…俺以外に男がいないところに決まってる。
そうじゃないと毎日俺、気が気じゃない。

「帰ろう、珪ちゃん」
「ああ、帰ろう」

少し冷えてきた屋上で名残惜しむようにもう一度 を抱きしめて、もう一度キスをしてからそっと手を握った。
絶対に俺の手を離すなよ、俺も絶対に離さないから。

でも、また明日からこいつの周りの男対策を考えなくちゃいけないな。
ああ、今夜もあまり眠れそうにない。
その笑顔は俺だけに見せてくれたらいいんだけど、な。





[chambre froide]様のサイトにて、10000Hit達成記念ゲームのお土産！
として、甘い甘い話というリクエストで、書いていただきました。

花野、初めての頂き物にひたすら感動しています。
素敵なお話ありがとうございました。