Ａ ＰＲＥＳＥＮＴ ＴＯ Ａ ＳＩＣＫ
ＰＥＲＳＯＮ〜和馬side
最近よく夢を見る。
その夢の中には決まってあいつが出てくる。
笑っているあいつ、怒っているあいつ、元気にグランドを走っているあいつ、
真剣な眼差しで勉強しているあいつ、泣いているあいつ･････。
そんなあいつに俺が触れようとした途端、いつも目が覚めちまう。
俺、なんでこんなおかしな夢ばかり見ちまうんだ？
そういやここ数日、あいつの姿を見ていない･････。
そりゃ、確かにクラスも部活も同じじゃねぇけど、ここ最近一日一回はあいつに会っていたからなんつーか･････変な感じだ。
おかしな夢の原因もこれなのか？
今日はあいつに会えるのだろうか。
会わなきゃ、会ってこれを渡さなきゃ、あんな恥ずかしい思いまでして買ってきたっつーのによ･････。
まぁプリントも渡すように頼まれてるし･････つーか、これじゃまるでプリントを渡す方がついでみてーじゃねぇか！
違う違う、絶対に違う！！
プリントを渡すのが本当の目的で、こっちは、その、なんつーか、そう！たまたまだよ、たまたま！！
･････つーか、誰に言い訳してるんだ、俺･････。
俺は綺麗に包装されたピンクのリボンが付いている小さな箱とプリントを持ってあいつの家に向かった。
あいつの弟は部屋まで案内すると、
「ジュースでも持ってきてやるから、ま、適当にその辺座っててよ。」
そう言い残し、出て行った。
おまえは俺が居ることにちっとも気づかないで寝ているようだった。
俺は今まで一度も入ったことがないこの部屋を見回してみた。
綺麗に片付けられてんな･････ぬいぐるみとか置いてあったり･････ひらひらしたカーテンとかよ･････。
そうか、おまえも一応･････女、だったんだよな･････。
「もう！！しつこいなぁ！！わたし、体調悪いん･････。」
突然おまえがベットから起き上がった。
「あ、よお･････しつけえ？俺、べつに、なんもしてねえけど。」
「和馬くん！？ごめん！！わたし、てっきり弟かと･････。」
おまえは相当驚いたらしく、大きな目を一層大きくさせていた。
「あ、そっか。学校のプリント、持ってけって頼まれてさ。大丈夫か？おまえ。」
プリントを渡しながら、顔をじっと見てみる。
顔色は悪くなさそうだな･････よかったぜ。
そんな俺の顔をおまえもじっと見つめていた。
そんな風に見られると･････な、なんかドキドキしてきちまうぜ･････。
「ありがとう。もう、だいぶ･････。」
異様な雰囲気に呑まれたのか、俺の右手がおまえの頬に移動していく。
目を瞑り、顔を近づけようとしたその瞬間、部屋のドアが開く音がした。
「ジュースですが･････。じぃ･････。なるほど･････メモ、メモ。」
「な、なんだ･････！？」
俺はとっさにおまえの側から離れた。
･････ふぅ、危なかったぜ･････つーか、俺はさっき何をしようとしてたんだ！？
も、もしかして･････キス！？
ど、どうしちまったんだ俺？これじゃまるで姫条みたいなスケベ星人じゃねーかよ！
赤くなったり青くなったりしている俺の傍らで、おまえと弟は仲良さ気に話をしていた。
「尽！」
「どうも！至らぬ姉ですが、どうぞ、よろし･････。」
「尽！！」
「･････ちぇっ。はいはいわかったよ〜だ。」
そう言いながら弟は部屋を出て行った。
そんなやりとりを横目で見ていたら、思わずさっきのことを忘れて笑いがこみ上げてきた。
「･････あっはは、おもしれえよな。おまえの弟･････。」
「そうかなぁ･････。」
「おう。あ、それと、今日、おまえの誕生日だったよな。」
さり気なく、誕生日の話題を切り出してみる。
「あ、うん･････。」
「コレ、おまえにやるよ。･････誕生日プレゼント。」
そして用意してあったプレゼントの箱を差し出した。
「和馬くん･････。すごくうれしい。ありがとう･････。」
笑顔でお礼を言うおまえを見たら、さっきの自分の不可解な行動を思い出しちまったぜ･････。
「あ、そんなに感動すんなよ。中身、気に入っかわかんねえし･････。」
ドギマギしながらおまえから視線を外してそう言う。
一体どうしちまったんだ、俺･････さっきのことが頭から離れない。
「んじゃ、あんま長居すっとおまえの身体に障るかんな。帰るわ。」
なるべく平静を装いつつ、
「早くよくなれよな。ニンニク食っとけよ、ニンニク！･････んじゃな。」
そういい残して俺は部屋を出た。
あの様子だと、あいつはもう来週には学校に来ることができるな。
それにしても今日の俺、ちと変だよな。
なんでいきなりあんなことを･････でもあいつも弟も気づいていなかったみたいでよかったぜ。
とにかく、無事渡せたことだし、あいつ今頃喜んでくれてっかな･････。
来週学校で会ったときのあいつの反応が楽しみだぜ！
「鈴鹿！」
名前を呼ばれて振り向くと、そこにはあいつの弟がいた。
「ん、なんだ？俺に何か用か？」
いきなり呼び捨てにされたのがちと気に入らなかったけど、まあこいつにはさっき助けてもらったしな。
あの時、もしこいつが部屋に入ってこなかったら･････。
「鈴鹿、さっきねえちゃんにキスしようとしただろ！？」
ニヤリとした笑みを浮かべながら俺に近づいてくる。
「な、何をいきなり！？」
明らかに動揺している俺を見ながら、弟は更にニヤリとしながら言った。
「鈴鹿先輩、オレ欲しいゲームソフトがあるんだけどな〜･････。」
悪魔のような微笑を浮かべた弟を見ながら、俺は少ない小遣いからどうやりくりしようか考え込んでいた。