彼女の真意



「ん？あれは…」

もう日が沈み、辺りが暗くなってきていた。

「こんな時間に、あんなところで、いったい何を？」

吹奏楽部の部活の片付けも終わり、ふと窓の下を見た時だった。


ガラッ


「おい、。そこで何をしている？」

パッと私を見上げ、

「あ、氷室先生！！」

嬉しそうににっこりと笑う。

「もうじき、暗くなる。落し物でもしたのか？」

何かを探しているようだった。

「あ、いえ。落し物ではないんです。」

？

「そうか、もう帰宅しなさい。」

「はい。分かりました。」

そう、返事をしてはいるが、またしゃがみこむ。

ふぅ〜。

大事な物なのか？

私は急いで帰宅準備をして、のいた場所に行く。



「。」

「あ、氷室先生。」

「やはり、何か失くしたのか？」

一緒に座って探してやろうかと思ったのだが、

「あ、先生。違います。違います。」

慌てて立ち上がり、両手を振る。

？？

どういうことだ？

「…………。」

しばし、沈黙の後、

「じゃ、私帰りますから。」

ペコッと会釈し、その場から離れようとする。

「待ちなさい。」

「え？」

コホンッ。

「私も帰宅するところだ。家まで送って行こう。」

「はい！ありがとうございます！」

その笑顔をとてもまぶしいと感じる。

車内であれこれと楽しそうに話をしているを可愛いと思う。

なんだというのだ？全く！私はどうかしている…。




まただ。

彼女はあそこでいったい何を探しているんだ？

ここのところ、毎日じゃないか？


そう思った翌日から、彼女の姿が見えなくなった。

見つけたのか？それとも諦めたのか？

何度聞いても落し物ではないという。

なんだったのだろう？

こんなことが気になるなんて…。



それから、ちょうど１週間…。


「あ、氷室先生！！」

放課後、音楽室から戻ろうとする私に、が声をかけてきた。

「なんだ、。何か用か？」

「はい。先生！」

その手から差し出された小さい封筒。

？？？

それはまさか？？？

イヤ、そんなはずは……。


コホンッ。

「生徒からの贈答品は受け取りかねる。」

その中身が気になる…。

こんなこと、かつてあっただろうか？？

もし、これが………であったなら………

それを断るなんて………。

いや、まさか有り得ないだろう。。。

「氷室先生！これ、贈答品じゃありません。」

そ、それもそうだ。もし手紙なら贈答品とは言わないだろう。

が、しかし………。

「では、中身は何だ？」

自分でも心臓が高鳴っているのが分かる。

これはどういうことだ？？

差し出された封筒を受け取る事が出来ない。

そっと、が封のされていない封筒から、中身を取り出す。

ん？それは…？

「これ、しおりなんです。」

「しおり？」

手紙ではなかったのかと、ホッとするような、ガッカリするような…。

「はい、私が作ったんですけど…。」

彼女の手作り？？何故？？

「贈答品であろう？」

手作りのしおり。プレゼントには違いないだろう？

「氷室先生！違います！」

？？

「何がどう違うというのか、説明しなさい。」

「あの、これはおまじないなんです！」

「は？」

まじないだぁ〜〜？

いぶかしげにを見ていたであろう。

「あ、あの。成績をあげたい教科の先生に、持っていてもらうものなんです！」

赤くなりながら、真剣な眼差しで私を見つめる。

その眼差しが私をしばしば混乱させる。

「だから、お願いです。…氷室先生、これ、ずっと持っていて下さい！」

懇願する彼女の熱い眼差しを無視することなど出来るだろうか？

「持っていればいいのだな？」

彼女の手からそっとそれを受け取る。

パッと顔をあげ、ちょっと驚いたような表情を一瞬見せた。

「あ、ありがとうございます！！」

にっこり笑う彼女に眩暈すら感じる。


立ち去る後ろ姿を見送った後、手に残ったしおりを見つめる。

四葉のクローバー。。。

まじない…か。

彼女もそんなものを信じて行動することもあるのか。

なんだかほほえましく思う。

「ずっと持っていて下さい……か。」


私はその後、しおりを数学の教科書にはさむことにする。

彼女の数学の成績があがるように、祈りを込めて。。。







それから数日たったある日の放課後だった。

ちょうど教室の前に通りかかると、数人の生徒の話し声が聞こえてきた。

全く、下校時刻はとっくに過ぎている。

一言注意しなければ！そう思った時だった。


「えぇ〜？あれ、ヒムロッチに渡したの？？」

ん？あの声は…藤井か？

なんだ？私がどうかしたのか？？

思わず、成り行きを見守ってしまう羽目になってしまった。

「うん。そうだけど…。」

相手はだな。

「うっそぉ〜。氷室先生が、受け取ってくれたの？」

紺野もいるのか？

「しかもがずっと探してヤツでしょ？あれ。」

「うん。だって、氷室先生。最近何だか元気がなかったでしょ？」

「はぁ〜？ヒムロッチが？」

「ごめんなさい。私も分からなかったけど？」

「そうかなぁ？何となくなんだけど。だから幸運をね、渡したくて。」

「ほぉ〜。それでは何日も四葉を探してた訳だ。」

え？

のあれは私に渡す為の四葉のクローバーを探していたということなのか？

「あれ？ちゃん。あの噂のおまじないの為じゃないの？」

紺野が聞く。

そうだ。まじないだとも言っていたではないか！

「あぁ。校内で四葉のクローバーを見つけて、それを好きな人に持っていてもらえると

願いが叶うってヤツでしょう？」

「うん、そうそう！」

は？なんだって？？

「うん…。その噂も知ってる。だから一石二鳥でしょ？」

何ぃ？？

「でも、あのヒムロッチがよく受け取ってくれたよねぇ。」

「本当。びっくりしちゃったよぉ〜。」

「あ………。」

「何？どうした？」



ガラッ


「うわぁ〜、ヒムロッチ！！」

「下校時刻はとっくに過ぎている！早く帰りなさい！！」

慌てて３人がカバンを手にし、立ち上がる。

「先生、失礼します。」
「ヒムロッチ、バイバ〜イ。」
「先生、さようなら。」

それぞれが言いながら、私の横を通り過ぎ、教室から出て行こうとする。

「。」

「は、はい！」

「君はちょっと、待ちたまえ。」

「え？」


先に行ってるねぇ〜と２人が階段を下りていく。


「あ、あの、先生？」

おずおずとが尋ねる。

「。君は私に嘘を付いたのか？」

一瞬とても驚いた顔になり、次の瞬間真っ赤になった。

「先生、聞いて…？」

「あ、いや…」

私は、それを問いただして、どうしようと言うのだ？


「氷室先生！あれはおまじないです！」

じっと真剣な瞳では私を見つめる。

「ですから、お願いです。先生！持っていて下さい！」

ペコっと頭を下げて、駆け出してしまった。


ぱたぱたぱた…


あんまり真剣に、潤んだ瞳で訴えられ、私は言葉を失った……。


最近の私が元気がなかったから？

私の為にあんなに必死に探していたというのか？

それとも、まじないが彼女の真意なのか？

しかし……「好きな人に」と言っていなかったか？

一石二鳥とも言っていたようだが……。



全く！君は………。


この私をこんなに混乱させてどうするんだ？


本当に最近の私はどうかしている。

こんなにも一人の生徒に心を奪われているなんて。


この思いをどう解釈したらいいというのだ？

この答えはどこにあるというのだ？



そして、。


君は………いったい………。










end




■　花野の言い訳　■

もう、何が書きたかったんだか？
主人公ちゃんに振り回される先生！を書きたかったんですけど。
何だか空回りをしているような気がします。
でも何だかんだ色々考えては、きちんと口に出来ず、
主人公ちゃんの真意を確かめられないでいる感じがいいなと思っています。
先生はずっと！クローバーのしおりを愛用することでしょう。(笑)

2004.6.22 花野

ＢＡＣＫ